ESG投資シリーズ② なぜ欧米諸国でESG投資が普及したのか?

前回『なぜ今、日本でもESG投資なのか?』で日本でもESG投資が注目を集めていることについて取り上げました。

欧米諸国によるESG投資の普及を受けて、日本でもESG投資の普及のイニシアティブがGPIFを中心に取られています。

今回は、そのような動きの根本的な理由、背景を理解するために『なぜ欧米諸国でESGが普及したのか?』みていきたいと思います。

SRI(Social Responsible Investment)

ESG投資と類似の概念として、社会的責任投資(Social Responsible Investment)というものがあります。ESGよりも古くからある概念で、1920年代、米国のキリスト教会が資産を運用する際、教義に反するタバコ、アルコール、ギャンブルなどの業種を投資対象から排除したことがその始まりです。キリスト教以外にも、人種的平等やアパルトヘイト、戦争反対から兵器産業などを排除するといった投資方針もSRIの一種といえます。

ESGは、SRIから発展したということが言うことができますが、以下のような点でSRIとは異なると思います。

ESG投資は機関投資家に対するイニシアティブであるPRIで、提唱されました。機関投資家は、受益者の利益を追求すべき受託者責任があり、キリスト教などの特定の価値観や倫理観を持った団体とは異なります。機関投資家は受益者の利益、すなわち運用利回りの向上を確保する、という受託者責任があります。この点について、PRIでは、ESG投資は中長期的な収益性を犠牲にするものではないと、整理しています。従来のSRIは、収益性を犠牲にしてもアセットオーナーの倫理観や価値観を反映して投資を行うものであり、必ずしも投資パフォーマンスに結びつくものではないと一般的には考えられていました。

なぜ欧米諸国でESG投資が普及したのか?

PRIによって提唱されたESG投資ですが、なぜ欧米諸国では機関投資家の間で普及していったのでしょうか。

結論から言うと、年金に関する法律や規制なので求められたこと、または、世論からの圧力があったというのが、その理由です。機関投資家が自主的にESG投資を行おうと思ったわけではないようです。

法律や規制で求められたこと、世論からの圧力の背景には、グローバル資本主義に対する人々の危機感があると思います。

「海外年金基金のESGファクターへの取り組みに関する調査研究」というレポートでは、例えば、「スウェーデンでは、サステイナブルな社会構築が国家戦略として掲げられ、それが数々の政策に反映されている。国民年金のAP基金の根拠法にもミッションとして倫理・環境を考慮した投資を行うことが規定され、ESG投資を行う直接のきっかけとなった。また、イギリスでは、2000年の年金改正法により、年金基金が投資決定の際に、投資先企業のESGに関する事項についてどのように配慮しているのか開示することが要求されたことが、ESG投資を後押しした。」と報告しています。

17世紀の産業革命後、技術革新によって世界は飛躍的に物質的に豊かになりました。それを支えた仕組みがグローバル資本主義です。お金は高い利回りを求めて世界中を駆け回り、効率性を求める結果、国際分業が進んでいきました。その結果、世界は豊かになりましたが、同時に、世界のいたるところで環境問題や貧富の格差、労働者の人権問題など多くの外部不経済が生じてしまいました。

2008年の世界金融危機によって、ショートタームニズムやグローバル資本主義、金融がうまく機能していないということが明らかになりました。

世界の問題に関するイニシアティブ

世界の課題・問題を解決するためのイニシアティブが、NPOや国際的機関などによって、それぞれの分野において取られてきました。このようなイニシアティブは、環境に関するもの、人権や労働環境に関するものなど様々です。以下ESGに関係する代表的なものを見ていきます。

国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)
国連環境計画(UNEP)は、地球環境問題に専門的に取り組む国際機関をいいます。これは、1972年の国連人間環境会議(ストックホルム会議)の決議を受け、国連総会で設置された常設機関であり、その役割は国連の環境政策を立案・調整し、国連システム内の各種専門機関による執行を監督すると共に、一部の環境活動に援助を与え、自らも実施します。国連環境計画・金融イニシアティブとは、国連環境計画と金融機関の自主的な協定に基づく組織です。1992年に創設され、環境保護・社会の持続可能性に配慮した金融事業を推進するため、調査・情報交換などを行います。銀行・保険会社・証券会社など約200の機関が参加しています。

国連グローバル・コン パクト(UNGC)
国連グローバル・コンパクト(UNGC)は、1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)の席上でコフィー・アナン国連事務総長(当時)が提唱し、2000年7月26日にニューヨークの国連本部で正式に発足したイニシアチブです。企業を中心とした様々な団体が、責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組みです。人権の保護、不当な労働の排除、環境への取り組み、腐敗防止の4つの分野で構成される10原則を掲げている。このイニシアチブに賛同する署名企業は、世界約170カ国、12,000社に及ぶ。(2017年6月時点)発足当時の問題意識として、急速なグローバル化の進展によって顕著になっていた「負」の側面に対し、国家や国際機関だけではグローバルな課題を解決できなくなっていたことがあります。

またこの後、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)とUNGCは、金融市場の関与を進めるためPRIを発足させることとなります。UNGCの10原則と、PRIの6原則には共通の理念があると言えます。

世界の課題解決におけるPRIの意義

PRIの一番の意義は、インベストメントチェーンの頂点にたつ機関投資家の行動原理にESGの観点を組み込み、そのことが中長期的には受益者の利益に貢献するという整理をしたことだと思います。

ESGという概念が登場するまで、EとSとGのそれぞれの問題について、関心のある団体が、別々に取り組むことが通常でした。それが、ESG投資の登場によって、インベストメントチェーンに、持続可能性に関する包括的な取り組みが組み込まれることになりました。

NPOや国際的機関のイニシアティブや各企業の取り組みでは限界がありますが、PRIによって、各企業の重要なオーナーである機関投資家の投資行動に影響を与えたことが大きな意義であると思います。

現在、機関投資家がESG投資を行う動機としては、以下の4つのようなものに整理できると思います。

①投資のリスク
ESGへの配慮が足りない企業は、中長期的に企業価値が成長していかない可能性があるため、機関投資家にとってESG投資を行わないことは、リスクとしてとらえられるようになりました。投資リスクを低減するためにESG投資を行うという動機があるといえます。

②投資の機会
ESGを考慮している企業は、中長期的な企業価値を向上させる可能性があると考え、ESG投資を行うことによって、運用のパフォーマンスが中長期的に向上する可能性があると考えられるようになりました。

③ユニバーサル・オーナーシップ
ユニバーサル・オーナーシップは、2011年にUNEP金融イニシアティブで提唱された考え方です。大手の機関投資家は、世界の資本市場を代表するような、広く分散されたポートフォリオに長期にわたって投資するので、事実上、ユニバーサル・オーナー(資本市場全体を幅広くカバーする株式所有者)であるとされます。彼らのポートフォリオは、必然的に、企業活動を原因とする環境のダメージからの、ますます拡大するコストにさらされることになります。機関投資家は、それらのコストを全体として最小化し、外部性を削減するために、事業活動が行われる方法に影響を与えることができます。機関投資家は、環境影響がもたらす財務的リスクを削減するために、共同して行動することができるし、そうするべきである、という考え方です。

④基本的人権や環境問題などへの意識の高まり
法規制や世論の圧力が直接のESG投資普及の契機となりましたが、その背景としては、豊かになった先進国のミリミアム世代が社会全体の課題について意識が高まって来たというがあるのではないでしょうか。

まとめ

産業革命以後、資本主義は、世界経済拡大に貢献したことは明らかです。しかし、グローバルレベルでの課題もたくさ生み出しました。このような負の側面に対して、法規制や世論の圧力が生じて、ESG投資というものが、欧米諸国では普及していったということだと思います。そのようになったのは、人々の今の世界に対する危機感が根底にあります。

そして、現在では、ユニバーサルオーナーである機関投資家は、個別企業のリターンよりも社会全体の利益を考えることが、つまり、ESG投資を行うことが、中長期的な運用結果の向上と持続可能な社会を達成するものと考えるようになりました。

①機関投資家として、具体的に、どのようにESG投資を投資行動に反映させていくのか?
②投資される企業として、どのようにESGに配慮した経営を行っていくのか?

ということが、次の疑問として、湧いてきたので次回以降整理したいと思います。

 

 

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